日本の職人技が世界に誇るスツール

 今日最後の客先での打ち合わせを終え、休憩のために入った喫茶店。同僚と二人でボーっとコーヒーを飲んでいると、隣に座ったカップルからこんな会話が聞こえてきた。それまでどんなことを話していたかは分からないが、とにかく耳に入ってきたのはこんな内容だった。

男:木を曲げる技術は日本が優れているんだよ。
女:へぇ~、知らなかった。でもやっぱり木製の家具っていいよね。
男:そうだね。テンドウモッコウのバタフライスツールなんてその最たるものだよね。
女:テンドウモッコウ?バタフライスツール?何それ、知らない。
男:お前そんなのも知らないの?非国民レベルだな(そして苦笑)

 俺の頭の中はこの彼女と同じ。テンドウモッコウ?バタフライスツール?喫茶店を出てから同僚に聞いてみたところ、同僚も知らないらしい。家具の話だし、スツールだから木製のイスということは間違いないだろうという点で合意し、明日の仕事に備え今日はこのままお互い家に帰ることに。

 家に帰っても気になったので、何となく妻に聞いてみた。妻も知らないだろうと勝手に想像していたので、この会話は長く続かないだろうと思っていたのだが、何とあのカップルの男と似たようなフィードバック。「えっ、日本人なのにいい年して知らないの?情けない・・・」。ん~、そこまで言われることもないと思うのだが、しかし知る人は知っているものらしい。これは調べるしかないか。。。

 まずテンドウモッコウは「天童木工」か。古くから将棋の駒をはじめとする木工業の盛んな街として有名な山形県天童市に1940年に創業。優れた成形合板技術を有し、天童木工の職人技術と、戦後日本の工業デザインの確立と発展における功労者「柳 宗理(やなぎ そうり)」氏のイマジネーションから生まれたのがこのバタフライスツールらしい。同じ形の成形合板を2枚組み合わせたその姿が、まるで蝶が飛んでいるように見えることからその名がついたとか。

 厚さわずか7mmの強くしなやかに積層された成形合板が描くライン。凛とした佇まいの中にもふくよかな空気を感じさせる姿は、なんと図面に描くことなく、手の感覚を頼りにしたモデルから生まれた形とのこと。幅425mm × 奥行き310mm × 高さ387mm × 座面高340mm。カラーはナチュラルで明るいメープル色と、シックで落ち着いた印象のあるローズウッドの2種類。1959年に全国中小企業輸出振興展で通商産業大臣賞を受賞し、更にはニューヨーク近代美術館、パリ・ルーブル美術館にも永久収蔵されているとは、どうも有名なのは日本だけではないらしい。なるほど、これなら知らずに馬鹿にされても仕方がない気がしてきた。

 バタフライスツールを構成する左右対称の2枚の成形合板が、互いに支え合う姿と共同生活を始める二人を重ね合わせて、結婚のお祝いとしてプレゼントに選ばれることもあるアイテムだとか。それにしてもシンプルな構造ながら個性的な表情を持つこのスツール。和室・洋室を問わずマッチしそうだ。インテリアとして置いておくだけでも良さそうだし、馬鹿にされたお礼に、次の妻の誕生日プレゼントに買ってみるか。


天童木工 バタフライスツール 価格48,600円(税込み)

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