私の実家の庭には大きな柿の木があり、毎年秋には立派に実をつけてくれます。何でも、20年程前に80歳で亡くなった祖父が幼少の頃に植えたそうで、祖父の愛着はひとしお。祖父が亡くなってから、家をリフォームする際に切ってしまう案もありましたが、家族会議で「やはり何となくそれは・・・」という満場一致の結論に達し、今に至っています。
毎年秋に実をつける柿。しかし、残念なことに、私は柿を美味しいと思ったことがありません。せっかく庭で実が成るのに食べないというのはもったいない話ですが、私の舌はどう頑張っても「美味しい」という信号を脳に送らないため、どうしようもありません。親兄弟は皆好んで食べますし、ご近所にもお裾分けで配るので捨てることは一切ありませんが、柿は食べること以外に用途はないのものかと、実家にいる時は漠然と考えたものでした。
そんな実家を離れて25年の今。見つけました!食べる以外の用途。知らなかった私が無知なだけだったかもしれませんが、「柿渋染め」という伝統技術が日本には古くからあったのです。柿渋は、青柿(実の色がオレンジ色になる前)から作られる日本古来の天然染料。防水、抗菌、防腐、防虫、補強などの効果があり、漁網(防腐・補強)、酒袋(染色)、和傘(防水)、漆器(下地)など、生活の知恵として幅広く利用されていたそうです。家の柱などの建築材、樽や桶などの生活用品にも使用されていたとか。例えば、先に挙げた魚網。ナイロン製等の丈夫な網ができるまでは、綿や麻の糸で作られた網を柿渋で補強して長持ちさせていたようです。
江戸時代に広く普及したといわれるこの柿渋。現代では柿渋が持つ効果を上回る化学製品が数多く開発され、認知度が低下しました(だから私も知らなかった?)。しかし、近年、自然志向への関心が高まり、天然染料・塗料の柿渋が少しずつ注目され始め、様々な用途での利用が見直されているそうです。例えば、柿渋石鹸、柿渋歯磨き、柿渋シャンプー等。他にも何かないかと探してみたら、バッグ、帽子等々色々出てきました。そんな中で最も私の目を惹いたのがこちら、「柿渋染め 名刺入れ」。
1~3年冷暗所で寝かせて熟成された青柿の絞り汁を、牛革に刷毛で染色し天日干しします。この作業を数回繰り返すことで、天然染めらしい独特な雰囲気に仕上がるのだとか。柿渋の染色でよく問題になる染めムラは、逆にそれが一点一点違う表情を作り出します。更には、使い込むほどに風合いが増すだけでなく、飴色に変化していくという柿渋の特徴でもある発色の変化があるので、手触りの変化と色の変化を同時に楽しむことができます。
50枚程の名刺を収納できますが、革が馴染んでくれば60枚くらいまで大丈夫とのこと。裏地は麻を使用し「和」のテイストを一層高めています。カードポケットも4つあるので、クレジットカード等の収納もでき、機能性も十分ですね。昔から生活の知恵として人々の間で親しまれてきた柿渋染め。今持っている名刺入れがちょうど買い替えの時期なので、早速購入してみることにします。1年後の色の変化が今から楽しみです。